おかきズム

元ニコ動実況者(断じて有名でない)が、社会人になってブログ。グッズレビュー、アート、映画書評を書いてます。

【おかきズム書評#8】 現代を生きるアーティストが語る覚悟とは?「芸術企業論」村上隆

どうも、おかきです。

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今回ですが、世界的な日本人アーティスト、村上隆による著書を取り上げたいと思います。コロナ禍など情勢が慌ただしくなるこのご時世。アートも漏れなく荒波に揉まれています。

この著書は2006年の出版とかなり古めですが、今でも十分通じるところはあると思います。この記事が一つの参考になればと思います。

 

1. だいたいこんな本

まず著者ですが、日本が誇る現代アーティスト村上隆。ベルサイユ宮殿など各有名スポットで個展を開き、大抵の本であれば名前は見ます。さらには、所属する最高峰のギャラリー、ガゴシアンのニューヨーク拠点の入口には、20名のアーティストとして顔写真が載せられており(2022年4月時点)、押しも押されぬ超有名アーティストです。

著書の内容は、アーティストとして成功するためには何が必要かということ。ここでは、「世界標準のルール」=欧米アート史を理解した戦略が必要だとしています。よく芸術教育で推奨される「独自性」だけでは、現実世界でバッサリ切り捨てられてしまう。欧米アート史の文脈を踏まえた上での作品の構想・発想、自己ブランディング、そして血を吐くような地道な努力と執念が必要になるとしています。

なお、彼が生み出したスタイル、スーパーフラットについては言及少なめ、村上隆をあまり知らない人でも読むことは可能です。著書冒頭に写真も載っているので、「あ!この人ね」となると思います。

 

2. 総評:アート鑑賞の指針となる本

読んでおくべき本かと思います。現代アート、いや広くアートを本当の意味で知り、味わい、解釈する、そういったところでこの本は、アート鑑賞者にとっての「指針」となりうると思います。現に私の中では、一つの指針となっており、何度か読んでいます。


アートとなると、どこか感覚的なところだけで捉えようとしてしまいがちです。まだ私のアートラバー歴キャリアが浅いだけだと思いますが、造形・色彩など表層にばかり囚われやすい。そんな自分に対し、「歴史の文脈で理解する」という村上氏の強い主張は、重く響きました。実際頭の中で「感覚」と「知性」両方の間を行ったり来たりするものだと思います。ただそれを堂々と語るにしては、まだまだ知識と経験に厚みが必要だと、毎回この本を読む度に思わされます。

終始平易な文体で書かれており、読みやすい部類に入ると思います。アートの歴史は、デュシャンなど多少は知っておくべきですが、余程気になるのならスマホで検索すれば済むレベル。現代アート業界等もついでに学べますし、誰にでもおすすめできる書籍です。

 

3. 世界標準と日本アート界への怒り、そしてアーティストとしての矜持

書籍を通じてですが、日本アートの現状への怒りは凄まじいものです。

芸術大学や美術館の多さ、経済的豊かさなど、アートへのアクセスは世界随一を誇る日本ですが、技術や独創性ばかり重視する旧態依然のアートをキッパリ断罪、「発想」をより重視すべきだとした上で、ホンモノのアートは何かを伝えます。

すばらしい芸術は、ジャンルを超えて思想にも革命を起こす...
(『芸術起業論』, p76)

 

ただ物珍しいだけではない。真に評価されるべきアートは、普遍的に理解されうる歴史の文脈を踏まえ、作品とその凄まじい影響力は「歴史」に残る。(まさしくデュシャンのように)今や多元・多様なアート業界で中々理解の難しいところですが、著書で引き合いに出した表現を借りると「形の珍しいサボテンは育たない」ということなのでしょう。

 


あと全体を通じて分かるのは、執念が凄まじい。時間、労力、投資もとにかく惜しまない、ある種の起業家、ある種の努力家的な側面が見えました。

特にこのあたり、村上のもう一つの著書「芸術闘争論」でよく出てくるのですが、いかに作品に要素を凝縮するか、が大事としています。アートの顧客は、社会のトップエリートたち。要はスノビズムな世界です。そんな彼らの自尊心を満たすように、いかに作品に歴史の引用、表現・配置のオマージュなどを重ね、作品のレイヤーを積み上げるかが重要、、ということです。ハイアートな文脈の世界とは一見縁遠い、世界標準を踏まえた戦略の上での泥臭い努力・執念こそが、作品を「歴史に残るアート」を変えるのです。

 

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今回はこれで以上です。

この本は、日本のアートの現状を憂いて、変革しようと書いた著書とのことですが、最近インタビューによると、あまり変わらなかったと語っています。村上は、今後も雑誌やSNSでは発言するでしょうが、日本向けの書籍はもう作られないかもしれません。

なお、古いと言うこともあって、Kindleだと600円くらいで買えてしまいます。ただコスパは極めて高いので是非トライしてもらえればと思います。

ではでは。

 

引用文献:

 

2022.5.4 Wed 4PM

 

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