おかきズム

元ニコ動実況者(断じて有名でない)が、社会人になってブログ。グッズレビュー、アート、映画書評を書いてます。

【おかきズム書評#6】 20世紀のアートから学ぶアートとの向き合い方「13歳からのアート思考」末永幸歩

どうも、おかきです。

 

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7月に入り、いよいよ蒸し暑くなって来ました。
まだ梅雨の天候が続いているので、土日日中が蒸し暑い日数は限られていますが、夜はやっぱり暑い。我慢せずエアコンをきかせた快適な部屋で過ごしています。

今回、昨年2020年から書店に並んだある本について取り上げたいと思います。
ゴツめの黄色の本なので、私のように土日書店をプラプラしている方は見られたかもしれません。オリラジの中田敦彦さんの宣伝効果もあり、人気が出てるのかもしれません。あっちゃん、カッコイイ〜。

 

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紹介する書籍:末永幸歩『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』第3版、ダイヤモンド社、2020年

 

 

1. だいたいこんな本

この本では、20世紀のアート作品6点を各章で取りあげつつ、アート鑑賞における「基本的な考え方」について解説してくれます。よくあるアート系の本は、アート作品の紹介を重視し、作品の表現方法・歴史的背景だけ触れることが多いですが、この本では作品の紹介以上に、「考え方」によりフォーカス、全体を通じて「考え方」について語られます。


アート鑑賞における著者の主張を簡単に言うと、”表現の花"より"興味のタネ・探求の根"をということ。アート鑑賞というと、作品の造形表現・色彩(表現の花)ばかりに目が行きがちで、また知識・教養が必要と見做されがちです。ただ、本当に大事なのは、鑑賞者が持つ関心・感想(興味のタネ)を持ち、自分なりの考え(探求の根)を得ることです。アート作品に相対し、作品との「対話」「交流」を通じて深く堪能する、その重要性をこの本では改めて指摘しています。


ちなみに、タイトルの「13歳からの〜」となっている理由は、小学生と中学生の教育科目の評価統計を比較すると、大きく評価が下がる「美術」だからということだそうです。著者は、中学・高校の美術教師として、生徒の評価と知識偏重型の教育方法に憂いて、このタイトルにしたみたいですね。そんなにみんな「美術」嫌いなの?

 

 

2. アートを始める方へ:アート鑑賞とは?について考えてみるという”体験”

感想としては、アートの鑑賞について考えさせる良い本じゃないか!と思いました。

内容は非常にシンプル、各章最初は作品の軽い紹介をしてくれますが、最後にはアート鑑賞における、鑑賞者の「内的な体験」を重視するということを、何度も語りかけてくれます。アート作品はただ「上手い」のではない、(快・不快は別にして)内的な「刺激」ないし「感動」を与えるからこそアート作品であり、それを自身の中で受け取って、味わってこそのアート鑑賞です。当たり前のことではあるのですが、アート作品に向き合った時、存外これを忘れてしまいます。「13歳からの〜」という設定もあってか、セミナーを受けているかのような言い回しが気になりますが、あらゆる世代のエントリーとしてはお勧めしやすい本じゃないかな、と思いました。



特に、「知識偏重」の傾向については、アート好きの方でも何度も直面する問題ではないのでしょうか?書籍冒頭で、ある絵画作品と短文解説を見せられるのですが、その後「解説ばっかり見てませんか?」と質問されてしまいます。有名な絵画だったからこそ、解説にすぐ目を移してしまったのですが、これは流石にうっと思ってしまいました。

私が好きなのは現代アートになるので、近代以前の作品とは違い、評価が固まっておらず、膨大なバラエティーに富んでいるので、過大な知識偏重型には陥りにくいと思います。ただ、現代アートは、その反面何分捉え所がない。また、過去のアート史の積層を無視して語れない以上、何度も立ち止まってしまいます。ただそんな中、この本は「アートを鑑賞する際は、もっとインタラクティブ(相互作用)に考えていいのだ」と伝えてくれます。そりゃそうだという話なのですが、少し元気が出ました。



 

あえて、一つだけ問題点を出すとするなら、割と解説が長めです。
この本、340ページくらいの少し分厚目の本です。余白が多めの340ページですが、長めの文章を読むのが苦手な人は割と辛いかもしれません。作品数も少ない割には、アート鑑賞の「考え方」にフォーカスし、作品解説は多くは語らないレベルだったので、個人的な話ですが、新しい発見!というのはありませんでした。

ただ、書籍を通じて「考え方」を伝えることが著者の最終目標だからこそ、この構成にしたのだと思います。過剰な部分を徹底的に削ぎ落とし、初心者にも分かる平易な表現を心がけた著者の優しさが伝わってきます。少し厳しく書いたかもしれませんが、個人的にはそこまで冗長さは感じないレベルだったのは伝えておきます。

 

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今回は、これで以上です。

最近、クリティカルシンキング(批判的思考)などに代表される、「解決型」の論理主義・合理主義からの脱却として、「アート思考」という単語が散見されるようになっています。ただ、そういった本は、たいていアート解説が過剰だったり、逆に少なかったりなど、何もかも中途半端。あまり良い本はない印象です。ただ、もしいい本無いのか?と思っている方には、この非常に分かりやすく、おすすめできます。


あともし この本を読んだ人なら、ぜひ美術館に行ってみてください。そしてぜひ作品を堪能してください。すると、その時間が、有意義で贅沢な時間を感じられると思います。それこそがアート鑑賞です。それを実体験するまで、目的は達成されていないということは肝に銘じたほうがいいかもしれません。(まあこのご時世なので無理なさらぬよう)

 

ではでは。

2021.7.11 Sun 11PM

 

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